あそかビハーラ病院
「キャリアのある看護師に経験の場を」
当院では、これまでも人材交流の受け入れを行っており、4人目の交流者になります。京大病院で癌の最先端の治療と看護を経験され、緩和ケアの実際を知りたいと思い、当院を希望してくださいました。緩和ケアと言っても施設ごとにその特徴は様々で、独立型仏教ホスピスである当院の特殊性に、最初は戸惑いがあったのではないかと思います。しかし、6カ月を過ぎると、リーダーシップを発揮しながら、これまでの経験を活かし積極的に患者さんやご家族にかかわり看護しておられました。そんな中、「この患者さんにとって最善の看護は何か」と、患者さんや家族の傍らで自問している姿を見ました。その問いは、チーム全体の問いになり、課題となりました。違う組織に所属しながら看護師間の看護観、死生観の交流があった場面を一番の成果、宝だと思っています。
看護師
患者さんは自分の人生をかけてがんと闘っている
治療の最前線で再び看護師として働くことには大きな不安がありましたが、実際は親切なスタッフばかりで、質問や相談をするのに気を使うことがありません。京大病院は大きく、常に新しい看護師が入ってくるからでしょうか、ひとを育てるということにとても豊かな土壌があるなと感じました。京大病院に派遣されて感謝するのは、治療にあたる患者と多く関わることができることです。患者は抗がん剤治療の点滴1本にも悲壮な思いで取り組んでおられます。残された治療の選択肢が徐々に減っていく時の患者の表情も決して忘れることはできません。最新の治療、看護技術を学べることはもちろんですが、目に見えない部分もたくさん気づかせていただけたことは、本当にありがたいと思っています。
看護師
その方らしさ"を大切にした緩和ケアができるよう派遣先のホスピスで命との向き合い方を学ぶ
京大病院の耳鼻咽喉科病棟で、終末期の患者とその家族と関わるうちに、緩和ケアに関心をもつようになり、いつかホスピスを経験してみたいと思うようになりました。救命治療が最優先の高度急性期医療機関においても"その人らしくあることの手助けはできるのではないか"と思い、あそかビハーラ病院への派遣を希望しました。この病院の看護方針は、最後のときまで"その方らしさ"を大切にしながら過ごせるようケアしていくというもの。お酒もたばこもOKというのには驚きました。あくまでも家庭に近い状況でケアやコントロールをしていくのです。病院の機能の違いによって看護スタンスが全く異なることを改めて実感しました。とても印象に残っているのは、お酒がお好きだった患者のために家族がお酒を持ってこられ、そのお酒を使用して口腔ケアをさせていただいたことです。すでに意識が低下されていて実際にお酒を飲まれることはなかったのですが、そばで娘さんが「一緒にのんだね」と話しかけていました。家族が喜ばれている姿を見て、なんとも言えない気持ちになりました。「この患者だったら、こうしてほしいだろう」という気持ちを予測し、適切なケアができる看護師がたくさんいらっしゃいます。このような患者さんの意志を酌み取るケアやサポートができるようになりたいと思っています。
経験を活かせる場面よりも新しく学ぶことの方がたくさん
これまで看護師として多くの経験を積んできましたが、緩和ケアの現場ではほんの少ししか役に立てていない気がします。これまでは「この治療の副作用だから」と患者に我慢してもらっていたことが、本当は緩和処置の方法があると知り、知識も技術もこれまで以上に新しいことを求められます。ホスピスでは検査が多くないので、患者一人ひとりを観察する力が以前よりもついたように思います。印象的だったのは、患者の明るい笑顔です。がんを抱えて余命を知っていてもなお、前向きな表情でいられる。がんと治療による辛い症状がなくなるというのは、こんなにも良いものなのだと改めて実感できる機会になりました。
看護師
看護の基本は同じ。患者が悔いのない人生を過ごすために
先輩たちに業務、薬剤、アセスメントの仕方などを一から指導していただいて、とても新鮮です。もちろん違いはありますが、患者に寄り添い、心の声を聞くといった看護の基本は同じで、緩和ケアの現場に来てそれを改めて知ることができたのはとても大きかったです。患者が悔いのない人生を過ごす為には、急性期・慢性期の治療中から緩和ケアは始まり、意思決定支援が必要だと身をもって学ぶことができたと思います。疼痛コントロールにおいて、個々に応じたアセスメントを行い、患者・家族に寄り添ったケアを提供する事は、専門性は異なるものの看護の基本である事を改めて感じています。
緩和ケアの実際を深く知りたくて
京大病院では、これまで集学的がん治療・放射線治療科・外来がん診療・外来化学療法室で勤務してきました。がん治療における薬物治療、放射線治療、内視鏡治療を受ける患者に携わる中、症状の進行から積極的治療を終えなければならない方々とも多く出会ってきました。京大病院は緩和ケア病棟を有しておらず、緩和医療を必要とする方には希望に合わせて在宅やホスピスへ退院調整を行います。患者を送り出す立場として、症状緩和を専門とする病院の看護をもっと知りたい、そんな気持ちが強くなっていた頃に出会ったのが、独立型ホスピスである あそかビハーラ病院です。一日研修に参加した際に医療スタッフ全員が丁寧にカンファレンスを実施している姿を見て、ここで深く学んでみたいと思うようになりました。
ホスピスが本当に求める情報提供を
一年間、本当に多くのことを学ばせていただきました。モニターに頼らないアセスメント、終末期の効果的なケアの方法、残された時間が少なくなった家族との関わり方など、たくさんの学びがありました。これまで京大病院で記載していた看護情報提供書には、ホスピスが知りたい内容が少ないということもわかりました。転院してきた際にはすでに患者の意識レベルが低下し、患者の思いを確認できないことも珍しくありません。そのひとらしい最後の時間を過ごすためには、送り出す側が意識のあるうちに希望をお聞きして、しっかりと共有する必要があると感じました。一年でホスピスの全てを理解することはできませんが、限られた時間で学んだことを京大病院に還元し、スタッフ教育にも活かしていくことがこれからの大きな目標です。
2015~2024年度人材交流実績
- あそかビハーラ病院 ⇒ 京大病院:看護師1名
- 京大病院 ⇒ あそかビハーラ病院:看護師4名

