令和3年度相互交流報告オンライン開催レポート
- 開催日時|2022年2月26日(土)13:00−15:00
本事業は、京都府下で活躍する看護職員たちの交流と、さらなるキャリアやスキルの向上を目的に、2015年4月から京都大学医学部附属病院・看護職キャリアパス支援センターが中心となって開始されました。毎年度末には一年の活動を振り返るとともに、次年度の参加施設の拡大や、出向経験者が得た学びの共有などを目的に「相互交流報告会」を開催しています。コロナ禍の収束が見通せない中、昨年度に引き続いてのオンラインでの実施。2年連続で一堂に会することは叶わなかったものの、各拠点から画面を通して想いを届けあう貴重な時間となりました。
【開会のあいさつ・事業説明】看護のこれからに想いを馳せる時間に
感染者数が爆発的な増加を見せる新型コロナウイルス第6波。その最中での開催となった令和3年度の相互交流報告会は、京都大学医学部附属病院・看護職キャリアパス支援センター/井川順子センター長によるコロナ禍の最前線で身を捧げる看護スタッフへの労いと、「少しの間ではあるけれど新型コロナウイルスのことを忘れ、看護のこれからを考える時間にして欲しい」という言葉からはじまりました。
開会のあいさつに引きつづいて、同・井川センター長より、本事業の説明が行われました。事業の背景や目的、これまでの実績などとともに語られたのは、京都府全体で看護の連携と質を向上させたいという想い。自施設だけでは得られない経験を通して、出向者と施設側のどちらもが成長していけるように取り組んでいきたいと話されました。
【交流者発表】人材交流を経験した看護師・助産師4人による報告リレー
開会のあいさつ、事業説明につづいて行われたのが、令和3年度の本事業に参加した4名によるプレゼンテーションです。それぞれの出向動機や出向先での学び、自施設に戻ってからの活動や今後の課題について、リレー形式で報告されました。出向期間に差はあるものの、自施設では得られない体験を求め、「看護師、助産師としてよりレベルアップを図りたい」「その経験を自施 設と地域に還元したい」という気持ちは同じです。実際に出向者はそれぞれの学びを自施設で共有し、互いに刺激を受けあっています。 医療提供体制の逼迫がつづく中、本年度は本事業への参加者数としては2015年の初年度以来最少になりました。そんな中でも本事業が継続され、参加した4名の参加者全員が自施設で新しい役割を全うしようと取り組んでいることは非常に心強く感じられました。
【基調講演】少子超高齢化と支え手の減少が進む2040年に向けた提言
看護職キャリアパス支援センター初代センター長も務めた秋山智弥先生(名古屋大学医学部附属病院 卒後臨床研修・キャリア形成支援センター 看護キャリア支援室 室長/教授)による基調講演『2040年に向けた看護職のキャリア支援』が行われました。団塊の世代が一気に後期高齢者となっていく2025年よりもさらに15年先の2040年。看護やケアが求められる場面が増え、機能が異なる病院間の連携もさらに必要となる時代に向けて本事業に取り組む意義、そして、看護師の役割を拡大させる「ナース・プラクティショナー 制度」の提言などが語られました。
【ディスカッション】次年度以降の期待も高まったディスカッション
基調講演に続いては、井川センター長、秋山先生、京丹後市立弥栄病院・山本久美子看護部長、京都田辺中央病院・植村ひかる看護部長、市立福知山市民病院・髙松満里看護部長を中心に質疑応答とディスカッションが行われました。共通して話されたのは、出向者を送り出す側・受け入れる側、双方にメリットがある取り組みであるということ。「出向者たちは貴重な経験を通して自施設への愛着、周囲への感謝など、人間的にも成長して帰ってきてくれます」、「せっかく当院に来てくれるのだから、多くの学びを得てもらいたい。学生指導とは違った方法を考える中で、自分たちのスキルアップにもつながっています」、「スキルの高い人がやってきてくれました。ともに働くことで、私たちのスタッフの勉強にもなっていると実感しています」など、実にさまざまな効果が話されます。また、課題として挙げられたのが、人材不足の中で貴重な戦力である中堅看護師を送り出すことの難しさ。しかし、それでも「今回初参加してみて、メリットの大きさを実感しました。ハードルはありますが、どんどんバックアップしていきたい」という声が聞かれるなど、各施設の意欲の高さが窺い知れました。さらに、この日オンラインで参加した出席者からも、チャット機能を使って質問を募集。各施設内での認知度、出向期間の目安など、参加に向けて具体的な質問が数多く寄せられました。
【閉会】これからも地域医療構想に必要な人材の育成を
昨年に引き続き、オンラインで開催された令和3年度の相互交流報告会。本事業によって得られた実りを再認識できる貴重な機会であり、新型コロナウイルスの先行きが不透明な中でも、京都府における地域医療構想に必要な看護人材の育成に向けて、次年度以降の期待を大いに抱くことができる時間となりました。
令和3年度相互交流報告会基調講演
『2040年に向けた看護職のキャリア支援』
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名古屋大学医学部附属病院
卒後臨床研修・キャリア形成支援センター
看護キャリア支援室 室長/教授
秋山 智弥
少子超高齢化と支え手の減少が進む2040年
令和3年度相互交流報告会では、看護職キャリアパス支援センター初代センター長も務めた秋山智弥先生(名古屋大学医学部附属病院 卒後臨床研修・キャリア形成支援センター 看護キャリア支援室 室長/教授)による基調講演『2040年に向けた看護職のキャリア支援』が行われました。団塊の世代が一気に後期高齢者となっていく2025年よりもさらに15年先の2040年。人口減少と少子化はさらに進む一方で、高齢者の数はほぼ横ばい。また、高齢の単身世帯は増加し、地域機能はますます弱体化していく。そんな深刻な日本の未来の姿が、さまざまな報告資料をもとに参加者に突きつけられていきます。私たちは少ない支え手でいかにたくさんの高齢人口をケアしていくのか。人々の生活と治療の場となる地域で、看護の力を発揮していくのか。一人ひとりが真剣に考える時期が、確実に迫っていることを再確認させられる時間となりました。
人材交流によってジェネラリストをひとりでも多く
看護やケアが求められる場面が増え、機能が異なる病院間の連携もさらに必要となる今後、看護師はプロフェッショナリズムとともにジェネラリストとしての力がますます重要になります。「そのためにはマングローブ型のキャリアパスを描くことが大切です」と秋山先生は話します。太く、長い根を多方面に伸ばすマングローブの木。それと同じように、看護師もひとつの領域だけに縛られず、幅広い知識や技術、経験を深めながらキャリアップしていく。その想いの表れが、京都府下の病院間で看護師の相互交流に取り組む本事業の立ち上げでした。「出向した看護師たちは自施設では経験できなかった学びを得て、みな大きく成長をしています。出向者は異文化の中に飛び込んでいくことになります。いくら中堅以上の看護師が対象と言っても、最初は戸惑ったり、自信をなくしたりして当たり前です。現在の制度では3ヶ月を1単位として運用していますが、ぜひ1年、2年という期間を与えてあげてほしいと思います」(秋山先生)
ナース・プラクティショナー 制度の確立を
また、ジェネラリストの育成とともに、秋山先生が2040年に向けて必要と説いたのが、看護師の役割を大きく拡大する「ナース・プラクティショナー 制度」の導入でした。ナース・プラクティショナー 制度とは、看護と医学の臨床スキルを統合し、救命救急や急性期から慢性期まで、さまざまな医療ケアにおいて、アセスメント・診断・マネジメントを看護師が行えるようにするための資格制度。一定の領域において医師の指示すら不要という面では、特定行為研修制度のさらに先をゆく内容で、欧米ではすでに制度化が進んでいます。「今後、深刻化する医師不足の問題や在宅医療の増加を考えると、ナース・プラクティショナー 制度の導入は必須だと考えています」と秋山先生は語りました。
ここでご紹介できたのはほんの一部ですが、近い将来に私たちを待ち構える課題から、それを解決するためのヒント、そして本事業への期待まで、多岐に渡り語られた基調講演。看護師という仕事がこれからの社会に希望になること、そしてその素晴らしさも再認識できた時間でした。