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報告会レポートExperience

2019年度京都府看護職連携キャリア支援事業

相互交流報告会開催レポート

REPORT 01

施設間の人材交流によって成しえた中堅看護師の育成とその成果

  • 市立福知山市民病院 看護部長
    髙松満里氏

現在、市立福知山市民病院に勤務する看護師の年齢構成は20~24歳の若手が18%、25~39歳の中堅が42%、そして40歳以上のベテランが40%。中でも最も大きな割合を占める中堅看護師のリテンションマネジメントが、大きな課題だったと髙松看護部長は語る。

「年代的に結婚や出産、育児などと重なる時期。最も脂が乗り、これからの活躍を期待したい頃であるにもかかわらず、家庭への意識が働き、看護のモチベーションが下がる傾向にありました」(髙松看護部長)
そこで必要と考えたのが新たな刺激を与えること。しかし、自施設だけではできることに限界がある。そんなときにはじまったのが本事業であり、平成28年度から参加をすることにした。これまでに2名の受け入れ、4名の出向者の送り出しをしている。

髙松看護部長は出向したメンバーにはある共通点があると指摘する。それは、出向前は「自分のスキルアップのため」と考えていたメンバーが、出向後には「中堅の役割意識が芽生え、新人指導に対する内省と展望」を考えるように変化。そして自施設に戻ってから同僚を巻き込んだ業務改善や新人教育などに取り組むようになったということだ。

「これまでと大きく環境が異なる場所で、他流試合さながらの経験をすることで、組織人としてのあり方や役割・使命を見つめ直すきっかけになっているようです」(髙松看護部長)

また、出向後のメンバーがその貴重な経験を還元し、力を発揮するためには、それを受け入れるスタッフたちとの意識の共有が欠かせないと語った。

「出向者と出向未経験の間では、意識の違いから双方に負担を感じる部分が少なからずあったんです」(髙松看護部長)

そこで福知山市民病院では学びの共有を、広報誌でのみの発信から報告会の開催という形に切り替えた。そうすることで互いの理解が深まり協力体制が整ったばかりか、次年度以降の出向を希望する中堅看護師が大幅に増加することになった。これは中堅看護師のリテンションマネジメントという当初の目的に大きく合致するものと言えるだろう。
基調講演の最後を、髙松看護部長はこんな言葉で締めくくった。

「本事業は、複数人を一度に指導するこれまでの教育スタイルとは大きく異なる。一年にひとりしか、この経験を得ることはできない。しかし、その分確実に成長を促せると実感しています」(髙松看護部長)


REPORT 02

地域包括ケア時代の看護職のキャリアパス

  • 岩手医科大学看護学部 特任教授
    公益社団法人 日本看護協会 副会長
    秋山智弥氏

看護職キャリアパス支援センター初代センター長でもある、岩手医科大学看護学部・秋山特任教授の基調講演は、少子・高齢化が進み、地域包括ケアの重要性がますます高まる今、本事業を展開する意味を改めて解き明かすことからはじまった。
「この事業の目的は機能の異なる施設間で『在籍出向』による相互人事交流を推進し、自施設では経験できない医療機能の中での看護を深く体験的に学び、自施設の看護の振り返りを通して看護サービスの質を高めること。そして継続看護を確実に遂行できる『連携力』を鍛えることです」(秋山特任教授)

また、前センター長として数多くの出向者と関わった経験から、いくつかの印象的な声も紹介された。

「治療、緩和ケアと将来に悩む前に、まだまだ学ぶべきことがたくさんあると気づかさせてくれた一年でした」(大学病院→ホスピス)
「ホスピスにやって来る前の患者様と関わることで、看護の難しさを改めて知ることになりました」(ホスピス→大学病院)
「地域の急性期看護の腕だめしと意気込んでいましたが、まだまだ伸ばすべき点がたくさんあることに気づきました」(地域病院→大学病院)

ここに紹介したのはほんの一部だが、参加者の多くが環境の変化を通して看護観の変化・深化を体験している様子が窺えた。また、秋山特任教授は今後の看護師のモデルのひとつとして、オランダの小規模看護チーム「ビュートゾルフ」の事例を取り上げた。
一般的に在宅の現場では医師、看護師、介護士、家事代行、ケアマネージャーなど、さまざまな専門スタッフがチームを組んで利用者の自宅を訪問する。「でも、冷静になってみれば、看護師ひとりがいれば、ほとんどのことをできてしまいますよね?」と秋山特任教授は言う。実際、ビュートゾルフではICTをフル活用し、看護師が生活援助から診療補助までをすべて行うことでめざましい成果を上げている。そして、利用者と看護師の関係性は深くなり、まるで家族のような間柄になっていくのだそうだ。

「地域包括ケア時代のひとつのモデルケースではないでしょうか。そして、そうした場所で働く看護師には、ジェネラリストとしての高い能力が不可欠。そのためには知識、技術を幅広く深めなければいけません。イメージはマングローブの木です」(秋山特任教授)

太く、長い根を地中にたくさん伸ばすマングローブの木。そのように幅広い領域で看護力を深めていくには、まさに本事業が大きな効果を発揮していく。
「どこでキャリアをスタートしても、すべての看護師が足腰の強いジェネラリストとして成長できるように。そして連携に強い看護師が地域医療を牽引していけるように」(秋山特任教授)
医療機能の垣根を超えて活躍できる看護職の育成に向け、本事業に大きな期待を寄せた。